貧乏旅行の話

11.旅に病む

病む

外務省海外危険情報

国境の町で見付けた警告

旅に病む

 短期間の旅行ならば、余り気にすることもないのかも知れないが、長い旅行となると健康には常に注意が必要だ。旅行中に体調を壊し、その時点で旅行を中止する羽目になる可能性もあるからだ。無理して旅行を継続するにしても、体調が悪いと楽しくはない。健康な身体と精神で、余裕があってこそ旅行が楽しめるのであって、歩くのもやっとの状態では話にもならない。完治するまでその地に滞在することになる。
 前回の旅行でも3回程お腹を壊し、更に咳が出て困ったことがある。お腹を壊す原因は明らかに食べ物か水である。飲料水はペットボトル入りのミネラルウオータを飲んでいるが、このペットボトル入り飲料の信頼性は国によって違いがあるようだ。さらに普通の水道水や井戸水で氷が作られていて、氷が悪いとの話しもある。そこでなるべく氷は避け、冷えた瓶や缶飲料を飲むことにする。場所によってはビールが冷えて無く氷を入れたり、氷を入れて飲むのが習慣になっている処もある。

 食事はある程度衛生状態の良さそうなレストランや食堂で食べることにする。しかしそれは気休めに過ぎないこともある。同国人であれば習慣は同じ、衛生観念もそうは違わない。食材も超高級なホテルやレストランならいざ知らずそうは違わない。
 そもそも日本でも30−40年前までは生野菜を食べる習慣はなかった。今でも中華料理には生野菜の献立はない。昔は肥料に人糞を使う関係で、食物連鎖から野菜にも火を通すのが当然の習慣であった。化学肥料が使われるようになり、食が西洋化し、生野菜を食べる習慣が根ずく。植民地化されたアジア諸国も同じ状況だ。

 ラオスではフランスパンのサンドイッチやサラダは素晴らしく、クレソン、ミント、レタス、インゲン豆等がどんぶり(サラダボール)に入れて出される。これがそもそも洗って有るのか無いのか判らない。洗ってあれはどんな水で洗ったかが心配だ。おっかなびっくり食べることになる。これでは美味しいとは言えない。

 健康に十分注意したつもりでも限界がある。食べ物を調理するのは他人だ。出てきた物を見ただけでは判らない。少し食べてみて味を確認する。味がおかしければ食べるのを止めることだ。そこまで注意してもお腹を壊すことがある。生野菜を洗う水が悪く、物を揚げる油が悪い、食材が古い、調理後の保存が悪い。食器が十分に洗われていないなど原因はいろいろありそうだ。

 旅先で病むと誰でも気が弱くなり人生を考える。何故こんな処に自分はいるのかと考えることになる。旅に出た最初の目的がぼやけ、無為に時間を過ごすことになる。しかしこの様な精神状態で辺境の地で生き抜く人々の姿を観察するのも悪くはない。
 お腹を壊す程度ならそう深刻ではないが、急性肝炎、マラリアやデング熱となると話は違う。直ぐに病院行きとなる。しかし現地語が話せず、微妙な病状を説明出来ないのも問題だ。言葉の通じる病院へ行くことになる。国によっては医療施設が貧弱なところがあり、あっても治療費が異常に高額な場合もある。これは貧乏旅行者には痛い。この時は素直にクレジット会社に電話して対処して貰おう。ほとんどのクレジットカードには海外旅行特約が付いている。

 古い話であるが韓国のソウルでの苦い経験がある。地下鉄の鍾路駅構内を旅館に向かって歩るいていると、白いブラウスに青いデニムのスカートを履いた若い女性に声を掛けられた。彼女は大学生らしいのだが英語は得意ではなく、私は韓国語は話せない。仕方なく地下鉄出口近くの喫茶店に入り、観光案内書と会話集を使い意志の疎通を図る事にした。
 私の午後の予定はコリアハウスにて韓国舞踊を観賞し、その後南山に登りソウル市街を眺めることであった。彼女もこの計画に賛成し着いて来ることになった。

 二人で無料の外国人旅行者向け韓国舞踊ショーを楽しんだ後に、南山タワー下のベンチに腰掛け、アイスクリームを舐めながら夕暮れのソウル市街を眺めていた。しばらくすると、後から来たドイツ人と日本人の若い男性旅行者から声を掛けられた。二人が話していた内容は「韓国ではカラーテレビが放映されているか」であった。自分達の前にいる韓国人カップルと思しき私達に真偽を確認してきたのだ。二人の会話が聞こえていた私は直ぐにされていないことを英語で答えた。
 当時韓国ではカラーテレビは放映されず、南山タワーに観光客は登れず、南山からの写真撮影までも軍事的理由で禁止されていた。

 その後4人で東大門に観光に行くことに決まる。東大門は夜間に屋台が並ぶ有名なところだ。若いドイツ人青年は屋台に首を突っ込み何でも食べようとする。韓国人の彼女は事情を知ってか、しかめ面をして止めろと言う。しばらく見て歩いた後に、一軒の中華料理屋に入り食事をすることになった。二階に上がり便所に入ると一度も掃除をしたことのない凄まじい汚さだった。ドイツ人青年が林檎を持っていて分けてくれたのだが、洗った場所は私の見た所であった。
 この食堂で食べた焼飯も店の汚さからして押して知るべしであった。案の定旅館に戻ってから腹の具合いがおかしくなった。深夜に何度と無く旅館の共同便所に通い、お腹を押さえながらしゃがみ込み、冷汗と共に毒素を排出する。便所の小窓から見える大通りは街灯で明るく、戒厳令下で車も人通りもない静けさであった。

 翌朝は食事も満足に取れず、薬と水を飲み、近くのパゴダ公園のベンチに腰掛け、本を読みながら静かに過ごすことになった。知り会った女性との親交も無く、気だるく太陽が黄色に見える悲惨な一日であった。

 2002年3月、インドシナ旅行帰国1週間ほど前に、カンボジア"BATTAMBANG"の街角で飲んだドリアンシェークに当たった。町中の川沿いにある道を歩いていると、二人の若い女性が語らいながら美味しそうにシェークを飲んでいた。その二人の魅力に誘われ、私もシェークが飲みたくなった。近ずいて屋台のガラスケースの中を覗くとドリアンが見えた。値段も1500リエル(約50円)と妥当なところだ。シェーク屋の叔母さんがミキサーに氷とドリアンの切れ端、そして牛乳を入れてかき混ぜた。プラスチックの赤い椅子に掛けて通る人を見ながら喉を潤した。
 しかし後が悪かった。夕食にビールを飲んだのが悪かったのか、その日の夜半胃が痛み出し、お腹が張り出した。更に緑色の便が出てこれはただごとではないと考えた。しかし1日ほど安静にしているとお腹も落ち着いて来たので、バンコクへ陸路で移動した。しかしバンコクで腹痛が再発し、自分の気持ちに余裕が無くなっているのが判り、帰国を1週間程早めることにした。満足に食事が取れなかった為に体重が5kg減り、頬の肉が落ち、腹の脂肪が消費され凹んだ。

 帰国時に成田空港内の健康相談室に寄ってみた。誰もいない。大声で挨拶すると白衣を着た若い相談員が奥から出てきた。今までの経過と、現在は抗生物質を飲んで腹痛は一時的に収まっていると話すと「旅行者下痢症とは?」というチラシを渡され無罪放免された。男友達とハワイへ遊びに行った女性が話していた、検便用のガラス棒を肛門に挿入される検査もなく、ましてや無料で泊めてくれる気配もなかった。

厚生労働省検疫所のサイトはこちら
http://www.forth.go.jp/
 

外務省海外危険情報

 2001年9月11日、ニューヨーク世界貿易センタービルへジャンボジェット機突入事件が発生した。この事件以降、アメリカ合衆国はアフガニスタンのタリバン政権とアルカイダに宣戦布告し、世界中が緊張状態になる。差し当たって多くの人は旅行を控え、パッケージツアーもイスラム過激派勢力と緊張状態にある地域へは実施を停止する。特にブッシュ大統領が戦争状態であると宣言したアメリカ合衆国への旅行者は、テロの危険と厳格な荷物検査等を嫌い、旅行者が半減し、航空会社が倒産する事態に発展する。

 日本の外務省が発する海外危険情報は下記の5段階に別れていた。事件後「危険度2」となり観光客が激減し、社会問題化した観光地がある。しかし戦争状態であると大統領が宣言したアメリカ合衆国には「危険度0」と不可解な設定となっている。事故に遭わないように自国民に注意を促す警告が、アメリカ合衆国は医療施設が整っているので安全との解釈では道理が通らない。外務省に働く役人の卑劣さが垣間見える。

 海外危険情報の危険度
1.「注意喚起」    :滞在中の危険回避を促す
2.「観光旅行延期勧告」:旅行など急がない渡航の延期
3.「渡航延期勧告」  :目的を問わず渡航延期
4.「家族等退避勧告」 :滞在者に退避を勧める
5.「退避勧告」    :滞在者全員に退避と現地大使館などへの連絡が求められる
 

 結局は外国からの批判や辻褄が会わない事により、危険度数値での警告は2002年4月後半に廃止された。新しい危険情報は文章による下記の4段階となった。

1.「十分注意して下さい」:当該国(地域)への渡航、滞在に当たって特別な注意が必要であることを示し、危険を避けるようにすすめるもの。

2.「渡航の是非を検討して下さい」:当該国(地域)への渡航に関し、渡航の是非を含めた検討を真剣に行い、渡航する場合には、十分な安全措置を講じることをすすめるもの。

3.「渡航の延期をおすすめします」:当該国(地域)への渡航は、どのような目的であれ延期するようすすめるもの。また現地に滞在している邦人に対しては退避の可能性の検討や準備を促すもの。

4.「退避を勧告します」:現地に滞在している全ての邦人に対して当該国(地域)から、安全な国(地域)への退避(日本への帰国も含む)を勧告するもの。

 これを機会に「海外危険情報」、「海外安全相談センター情報」及び「国・地域別海外安全情報」三つの情報を一つにまとめ各々の国・地域別にした「渡航情報」及び「安全対策基礎データ」に変更したという。

外務省の海外安全ホームページはこちら
http://www.pubanzen.mofa.go.jp/

アメリカ合衆国安全警報はこちら
http://www.dhs.gov/dhspublic/display?theme=29
 

国境の町で見付けた警告

 タイ北部にメコン川で隔てられたラオスとの国境の町"CHIANG KHONG"がある。この出入国管理事務所前で見つけた、白地に赤字で書かれた「警告」は、冷静に読んだら深刻な内容だった。これでは怖くてメコン川を渡って隣の国へは行けない。しかし多くの旅行者はタイ語と英語で書かれた、この警告板の前を素通りして渡し船に乗る。国境の町まで来て、これを読んだからと引き返す旅行者は沢山はいまい。私も翌日メコン川を小さな船外機付きボートにて躊躇無く渡った。川向こうのラオス"HUAY XAI"にも同じような警告板が有れば面白いのだが無いようだった。
 
WARNING

TRAVELLING OUT OF THE KINGDOM OF THAILAND FOR GAMBLING.
MAY BE NOT SAFE FOR YOUR LIFE AND YOUR BELONGINGS,
ALSO THAI OFFICER CAN NOT PROTECT AND HELP YOU.

CHIANGKHONG IMMIGRATION


   これを読んで「タイ王国では命と、持ち物の安全は保障されているのか」と疑問に感じた。タイはいざ知らず、ビルマのホテルでは持ち物の紛失は保証されるらしい話を聞いた。しかし誰でも一番大切にしている命となると、死亡した人間を生き返らせる技術は現在の科学にはない。誰も人の命は保証しようがないのだ。最後まで自分を守れるのはその人の持つ危険予知能力となる。
 一般的に言われることだが、外国で強盗にあったら「相手の意に添うように行動しろ」だ。強盗を怒らせず、結局は「自分の命を守れ」ということだ。失った金や物は後で埋め合わせがつく。しかし自分の命は違う。この外国旅行中の教訓が日本国内でも十分に通用する現実があることだ。

 最近の日本はビクトル・ユーゴーのジャンバルジャンの世界に、逆戻りして来ているかのようだ。仕事が無く今日食べるパンに困っている人がいて、仕事を持ち住む家が有り、家族を持ち豊かに暮らしている人がいる。自分達の権力や利権を守るために税金を理不尽に使い、自分達の利に反する事には悉く無視する政治家が居る。そういう政治家を支える人々がいる。500円や1000円の食物が欲しいが為に結果として人を殺め、その少額の被害を防ぐために結果として命を落とす人がいる。これは日本の現実だ。

 最近の日本人による犯罪傾向は短絡的で、犯罪を犯す人間に余裕がない。犯罪を犯す危険に対し得る物が少ないのだ。これでは割に合わないと思われるが、それだけ犯罪を犯す者は精神的に追い詰められているとも考えられる。結局は弱者が社会から弾き出され、食べるために罪を犯す。一般の人々も治安の悪化や被害者として、応分の負担を背負うことになる。社会の持つ矛盾は結局他人事では済まないのだ。罪を犯した人間を通り一遍の裁判にかけ、牢屋に入れれば総てが終わりではない。

 これと比べると外国人犯罪グループ等はもっと手慣れている。銀行から出て来た人に道を聞いたり、物を落としたりして相手の注意を散漫にし金を奪う。日本人の金銭に対する不注意な面、危険予知能力の欠落を上手く利用しているのだ。

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