貧乏旅行の話

21.外国人料金

外国人料金

タイにおける外国人料金

マレーシアにおける外国人料金

インドネシアにおける外国人料金

外国人料金

 東南アジアを旅行していると、入場料や交通機関などで外国人だけが理不尽に高い金額を請求されることがある。いわゆる外国人料金である。これに多くの旅行者は不平等だと憤慨する。私が旅行中に各地で体験した外国人料金を考えてみた。

 外国人旅行者への対応は国、地域によりかなり違いがある。旅行者を招致したいがために優遇する方策と、旅行できる豊かな人々から特別料金を取る方法だ。スイス国内の鉄道運賃は国外で購入するとかなり安く、ヨーロッパやJRが販売している外国人向けキップも、長期間利用でき安く設定されている。

 一般的に外国人料金は二種類に分けられる。一番目は入場料や交通機関で、政府や公的機関などが定めた料金体系である。これは現地人料金の数倍から十数倍になる場合もある。二番目は各個人が豊かな外国人から高く料金を取ろうとする行為を言う。一般的には「ぼる」と呼ばれる行為だ。一番目は料金体系がしっかり決まっているので、否でも従うしかないわけだが、二番目の料金は事情が解れば防ぐことも可能だ。

 東南アジアや東ヨーロッパ諸国には、政府や公的機関などが定めた、外国人料金が厳然と存在する。その筆頭は中国であった。観光地の入場料、ホテル宿泊料金、列車、飛行機などの交通機関運賃が、現地人料金とは大きく違っていた。
 そもそも中国国内には二種類の通貨が流通していた。外貨から直接両替されたことを証明する「兌換券(FEC)」と一般的に流通している「人民元」である。兌換券は外貨への再両替も可能であった。さらに外国人留学生には優遇処置として「人民元」が「兌換券」として使える証明書まで発行していた。

 友誼商店、高級ホテルや公的交通機関などへの支払いはこの兌換券にて行う必要があった。そもそも外国人は兌換紙幣しか使えないことになっていた。しかし街角の食堂や露店では外国人でも人民元が実際には利用できた。兌換券を欲する中国人もおり、闇取引が一般的に行われていた。(兌換券は中国のWTO加盟により1994年1月に廃止となる。)
 私は中国で中国人に間違われたことが何度もある。その身体的特徴ゆえに、人民元にて故宮や秦始皇帝廟など中国人料金で入場した観光地も多い。入場券販売窓口ではアクセントの違いで外国人と解ると、中国人向けと違う多色刷りの入場券を出してきた。

 現在でもビルマは中国と同じような方法が採られている。ドル紙幣、兌換紙幣と標準の貨幣が流通している。鉄道運賃、航空機及びホテルは兌換紙幣かドルでの支払いが要求される。しかも航空機などは競争がないため外国人感覚でも高い。バス料金は競合する会社も多く、庶民が利用する交通手段として比較的に安い。(ビルマにおける兌換券への強制両替は2003年に廃止されている。)
 ベトナムも中国と同様にホテル、レストラン、航空機、列車や入場料などが外国人観光客と現地人とでは大きく違う。レストランや食堂では二種類のメニューが存在する。「外国人用」と「現地人用」である。英語とベトナム語の違いの他に料金も違っている。ベトナム語が話せて顔が似ていれば、現地人料金が適用される場合もある。

 マレーシア、タイなどにおいても史跡や観光施設の入場料は二重価格だ。キナバル山入山料、オランウータンリハビリテーションなどでは入場料が外国人では5倍以上になるところも見られる。一部の施設では外国人からカメラ、ビデオ持ち込み料を徴収したり、カンボジアのアンコールワット遺跡のように、外国人からだけ入場料を取る所も存在する。

 外国人料金はアジア諸国だけではなく、東ヨーロッパ諸国においても存在することを直接訪ねて知ることになる。これは内外価格差の問題で、国民所得の低い国に多く見られる現象である。
 これらの二重価格を少しでも防ぐには、各国で実施されている各種割引制度の知識を持つ事が重要だ。個人旅行者には鉄道やバスなどの交通機関による一日乗車券や往復割引、博物館、公的宿泊施設などにおける学生やシニア割引が適用される場合もある。
 

 二番目の「ぼる」行為はアジア、中近東諸国だけでなく、一部のヨーロッパなど先進諸国にも存在し、食堂、商店、私的交通機関など多方面で見られる。これを防ぐには個人が予備知識を持つこと、予防手段を取ることが先ず必要となる。
 レストランや食堂にあるメニューに金額が記載されていれば問題はほとんどない。安食堂などで金額が表示されていない場合には食べる前に確認する必要がある。さらに食べた後の請求書確認も同様だ。
 買い物は一番難しく、露店などで売られている物はそもそも値段はあって無いものだ。買う人と、売る人の交渉で決まる。言葉が通じ、値段交渉を楽しむ余裕が有れば問題はない。しかし交渉前に現地価格の予備知識を持つ必要がある。
 値段交渉が煩わしい場合には、都会であればスーパーマーケットなどに行くことになる。ここでは何処の国でも物の値段は表示されている。又その国の相場を確認するのにも役立つことになる。

 個人経営の交通機関でも一般的には料金は決まっている。ミニバスやタクシー、バイクなどである。同じ区間でも外国人と解ると途端に値上げする運転手もいる。こういう場合には知った振りをして黙って金を払うのも一手段だ。ちゃんとお釣りをくれる場合もある。 
 明らかにぼられたことが解ると私達は憤慨する。平等ではないからだ。しかし金持ちに見える外国人から高い料金を取る合理性もあるのかも知れない。

 アジア諸国で見られる「日本人価格」もこの「ぼる」行為の典型的なものだ。物価の高い日本から安い外国に旅行して、金銭感覚が麻痺を起こす。金銭感覚の切り替えが出来ないのだ。その様な人達に対し特別な価格設定をする。西洋人は一般的に日常生活が質素で、堅実的だ、不要なものは買い求めない。
 贈り物、土産物好きな日本人が何処の国でも標的にされる。また、しつこく付きまとわれて、はっきり断る意志表示が出来ない性格、習慣が狙われる。

 十数年前に訪ねた中国桂林の山上で、観光客相手に切り絵を制作販売している男を観察していて、なるほどと思わされたことがある。その30歳余りの男は日本語、英語、フランス語、ドイツ語を話し、山頂にて景色を見ている観光客の横顔の切り絵を巧みにはさみで切り、黒い台紙に添えて売っている。私が驚いたのは彼が素早く作る切り絵の出来映えではなく「価格設定」であった。最初から日本人には約500円、西洋人には100円余りと大きく差を付けていることである。日本人は自分の顔が作られたので買う人が多く、西洋人は無視するかハッキリと断る態度も対照的であった。 

 日本国内においても円高になり輸入品が安くなるのに係わらず、イメージ低下を嫌いブランド品などの売価を下げないのは典型的な「日本人価格」と言える。
 ほとんどの品物が価格表示されている日本においても、割烹や寿司屋では「時価」などと書かれて値段が表示されていないこともある。これは仕入れ値は解っているのに、無精をして値段を表示しないか、意図的に表示していないに過ぎない。当然値段が表示されていないので客の顔色で金額は代わり得る。
 日本の地方にある公的施設などでも、地元住民には入場料などの価格優遇がされているところも見られる。

 米や麦などの農産物、牛肉や豚肉などの食肉加工品、医薬品や化粧品は未だ日本における「輸入規制品」だ。これらは外国における流通価格と国内価格が大きく違う。米などは490パーセント(2004年)の関税がかけられている。多くの規制は国内産業の保護が名目で実施されている。それに反しカメラやビデオなどの工業製品は、国内販売価格と輸出価格が大きく違っている。現在でも並行輸入品や逆輸入品が存在する余地が十分にある。これらの「内外価格差」も深刻な二重価格と言える。こう見てくると二重価格は日本においても、一般的に存在していることになる。
 理不尽な値上げや価格設定に対し、日頃から堅実的に対応する習慣、生活態度が求められるであろう。

タイの代表的なリゾート、Hua Hin
料金確認の注意を促す看板、Hua Hin
 
サイアム博物館入場料、Bangkok

タイにおける外国人料金

 以前からタイ政府は多くの観光施設などで、外国人旅行者から特別料金を徴収している。国立博物館などの入場料(40バーツ)はタイ人(10バーツ)と比べ4倍程高く設定されている。ところがここ数年さらに値上げする傾向にある。100個所以上ある国立公園の入場料は200バーツであったものが、2005年より400バーツに値上げされた。日本国内において、国立公園などの自然を無料で楽しめる日本人にとって、これは余りにも高すぎる。因みにタイ人料金は20バーツである。
 (タイの国立公園は場所によって貧弱な物もあり、高い入場料に対し評判が悪かった。その為、料金は2007年12月より、値上げ前の料金に戻されたようだ。)
 公的機関の他に民間が運営する観光施設のショー劇場、マッサージパーラー、一部のホテル、商店、病院などでも外国人料金は存在している。また、拝観料を取る寺院においても外国人料金が存在する。

 最近の値上げは入場料だけではない。今までタイにおいては、バスや鉄道などの公共交通機関に、外国人料金は存在していなかった。ところが2005年12月より、泰緬鉄道において外国人料金が採用された。泰緬鉄道の観光区間(Thonburi-Namtok)は10バーツから100バーツに値上げされている。

 2003年8月に大幅値上げされたビザ料金も、2007年8月に調整値上げされている。観光ビザ料金はシングルで4500円である。さらに、違法滞在料金は1日200バーツから、500バーツとなった。そして、2006年9月に開港したバンコク新空港の使用料も、500バーツから700バーツ(2007年2月)に値上げされている。

 デモ隊によるバンコク新空港占領後発足した新政権は、2008年12月より博物館、動物園や遺跡などの入場料を値上げした。たとえばバンコクにある国立博物館の料金は40バーツから200バーツになった。値上げ率は5倍である。同様に地方にある国立博物館の料金も30バーツから150バーツとなった。同時にタイ人入場料も10バーツから20バーツに倍増された。多くの遺跡は40バーツから100バーツに値上げされている。バンコクドゥシット動物園は50バーツから100バーツに、チェンマイ動物園は30バーツから100バーツに外国人料金が値上げされている。

 タイ政府は外国人観光客から、金を取れるだけ捕ろうという政策を拡大させているかのようだ。さらに悪いことに、日本経済の停滞で、日本円の対外価値が下がっていることだ。タイバーツは日本円に対し、ここ数年で25パーセントも価値を上げている。

 この外国人料金は日本人の長期滞在者にもかなり評判が悪い。深夜便を利用して、バンコクから帰国時エンジン故障で、6時間余り機内に缶詰になったことがある。航空会社はよく遅れると評判のインド航空であった。何時飛び立つか、又はホテル泊まりか解らないので隣の人と話をしながら時間をつぶした。その老人はタイ人と観光地に行くときは、タイ人料
金で入場すると話していた。

泰面鉄道運賃改定告知、100バーツへ
500バーツに改定されたオーバーステイ料金
 
遺跡料金、100バーツに改定
博物館料金、150バーツに改定

マレーシアにおける外国人料金

 マレーシアにおいても近辺の東南アジア諸国と同様に、観光施設などで外国人料金が存在する。私が訪問した施設で外国人料金の筆頭は、ボルネオ島サバ州サンダカン市郊外のセピロック、オラウータンリハビリセンターであろう。外国人の入場料はRM30(1リンギットは約30円),マレーシア人はRM5で6倍の料金差がある。さらにここではカメラ持ち込み料も外国人料金が存在する。次はやはりサバ州のユネスコ世界遺産キナバル山である。入山料は外国人RM100に対し、マレーシア人はRM30であった。同様に公園入園料は外国人RM15に対し、マレーシア人はRM3である。他の施設の入場料はこれほど高くはなかった。世界遺産に登録されたサラワク州ムル山国立公園RM5、ニア国立公園RM10、バコ国立公園RM10、タマンネガラ国立公園RM1などである。

 マレーシアではご多分に漏れず、博物館や美術館でも外国人料金が存在している。クアラルンプールの国立博物館入場料金はRM5、マレーシア人はRM2である。しかしボルネオ島南部のサラワク州クチン市のように、ほとんどの博物館が無料の所もある。外国人も同様に無料である。推察するところ、各施設の料金設定は各州の方針によるようだ。
 鉄道や長距離バスなどでは外国人料金は無いようだ。また「ぼる」ような行為も無いわけではないが、インドネシアなどと比べ少なく思う。食堂などで、ぼられたことが何度かあるが、大きな金額ではなかった。

 マレーシアで利用されている文字が英語に近く、アラビヤ数字なので料金の違いが誰にでも解る。そこがタイやビルマとは違うところだ。タイやビルマでは外国人に解らないように、姑息にも価格表示にアラビア数字をあえて利用しない所がある。
 先日朝鮮日報インターネット版を読んでいて、韓国における外国人料金の話がニュースになっていた。日本人相手の美容サロン、スパや商店などで外国人料金が存在しているようだ。やはりここでも価格はハングル表示で外国人には理解できないようにされている。

 私がマレーシアで遭遇した観光施設などにおける入場料金は、外国人とマレーシア人では2倍から10倍ほどの料金格差があった。2倍は博物館などで10倍はキナバル公園の子供入場料金である。
 (各料金は2009年現在)

セピロック料金表、Sandakan
マレーシア人、外国人料金の違い
 
州立博物館、Kota Bahru
タマンネガラ国立公園

インドネシアにおける外国人料金

 インドネシアにおいても外国人料金が存在する。その筆頭はユネスコ世界遺産に登録された、仏教遺跡のボロブドール寺院、ヒンズー教遺跡のプランバナンである。両遺跡はジャワ島中部,、古都ジョクジャカルタの北部と、東部に位置している。ここは外国人訪問客の多い有名な観光地である。それぞれの入場料金はボロブドール寺院の13万5千ルピア($15米国ドル)、プランバナン遺跡は11万7千ルピア($13米国ドル)である。しかし、インドネシア人料金は1万ルピア、と大きな差がある。そこで、言葉が共通なマレーシア人の男性旅行者は現地人料金で入場すると話していた。

 両遺跡の入り口には外国人用のビジターセンターがある。これらの施設には冷房装置があり、ソファーが置かれ、ビスケット、コーヒーや紅茶のサービスが受けられる。外国人用の入場券はここで販売されている。現地人用はかなり離れた場所に設置されている。
 外国人入場料金が高いので、一部に割引制度が存在する。それはボロブドール村のゲストハウスやホテルに宿泊した旅行者に対し、2万ルピアの割引が受けられる。証明書はゲストハウスなどで発行してくれる。

 2011年1月に訪問した首都ジャカルタにある国立博物館の入場料は1万ルピアである。インドネシア人料金は5千ルピアなので、一部の博物館で外国人料金制度が取り入れられたようだ。他の地域はどうか調べてみた。ジャカルタ北部のコタ地域には4軒の博物館があるが、入場料金は2千ルピアであった。ここには外国人料金は無いようだ。ジャワ島の他の町はどうなのだろう、ジョクジャカルタの王宮(クラトン)はカメラ持ち込み料金込みで1万3千5百ルピア、Sono-Budoya Museumでのワヤン(影絵芝居)鑑賞料は2万3千ルピアであった。これは外国人料金のようだ。

 2012年7月にスマトラ島縦断旅行をした。各地にある州立博物館などの入場料は5千ルピア以下で、外国人料金は無いようだった。それよりも一部の観光地を除き、外国人旅行者はほとんどいない。それとは別に、インドネシアにおける外国人料金はバスなどの交通機関によるぼる行為が問題である。
 2012年7月時点の外貨両替レートは約¥1=Rp115($1=Rp9300)である。

外国人用ビジターセンター、Borobudur
現地人用窓口、Prambanan
 
Borobudur
Prambanan
ご意見、お問い合せはこちらへ 

元のページへ戻る